電源コラム vol.13「その充電、バッテリーの『寿命』を削っていませんか? 」

なぜ今、”賢い”充電器が求められるのか?
リチウムイオン電池は、その高いエネルギー密度から、今や産業機器、医療機器、モビリティに至るまであらゆる製品の「動力源」となっています。
それに伴い、バッテリーは「より大容量」に、「より高出力」に進化してきました。
しかし、この進化は回路設計者にとって新たな課題を突きつけています。それは、発熱、劣化、そして安全性の問題です。
多くの設計者が「CCCV(定電流定電圧)充電」という言葉は知っていても、「安全マージンを取りすぎて、バッテリーの性能(特に充電時間や寿命)を犠牲にしていないか?」という不安を抱えています。
本コラムでは、バッテリーのSOH (State of Health: 健康状態) を最大化し、製品価値を高める「賢い」充電回路の設計の勘所を解説します。
1. 【基礎】CCCV充電の「落とし穴」と劣化メカニズム
リチウムイオン電池の充電における最も基本的な手法がCCCV充電です。
1. CC(定電流)モード
バッテリー電圧が低い間、一定の電流(例:1C)で急速に充電します。
2. CV(定電圧)モード
バッテリー電圧が規定値(例:4.2V)に達すると、電圧を4.2Vに固定し、電流が徐々に減少するのを待ちます。
一見すると合理的ですが、ここには「落とし穴」があります。それは、「満充電状態 = バッテリーにとって最もストレスが高い状態」であるという事実です。
特にCVモードで4.2Vに張り付いている時間が長いほど、バッテリー内部では電極材の劣化が進行しやすくなります。また、過充電(規定電圧を超えること)や過放電(規定電圧以下に放電しすぎること)は、バッテリーのDCR (直流内部抵抗) を不可逆的に増大させます。
DCRの増大は「バッテリーの老化」そのものであり、
● 充電できる容量が減る(=稼働時間が短くなる)
● 大きな電流を流せなくなる(=高出力が出せない)
● 充電時に発熱しやすくなる
といった問題を引き起こします。
2. 【実践】SOHを考慮した「最適充電プロファイル」とは
バッテリーの寿命を最大化するには、CCCVという「決まりきった」充電から一歩進み、バッテリーの「状態」に合わせて充電方法を動的に変える必要があります。
キー技術①:温度モニタリング(NTC)
リチウムイオン電池は「熱」に非常に弱いデバイスです。特にCCモードでの急速充電中は、バッテリー自身が発熱します。 賢い充電器は、バッテリーパックに内蔵されたNTCサーミスタ(温度で抵抗値が変わる素子)で常にバッテリー温度を監視します。
● 設計の勘所
例えば、「充電中にバッテリー温度が45°Cを超えたら、CCモードの電流を0.5Cにディレーティング(低減)する」「60°Cを超えたら即座に充電を停止する」といった制御(JEITAガイドライン準拠など)を組み込むことで、熱による劣化と安全リスクを回避します。
キー技術②:DCR(直流内部抵抗)の推定
DCRはバッテリーの「健康診断」における「血圧」のようなものです。DCRを推定できれば、そのバッテリーが「新品」なのか「劣化末期」なのかが分かります。
● 設計の勘所
充電の合間に微小な放電パルスを与え、その際の電圧降下からDCRを推定します。
もしDCRが高い(=劣化した)バッテリーだと判断した場合、
○ CCモードの電流をあえて下げる
○ CVモードの目標電圧を4.2Vから4.1Vに下げる といった調整を行います。
これは、老化したバッテリーを「いたわる」充電であり、残された寿命を最大限に引き出すために極めて有効です。
キー技術③:プリチャージ(予備充電)
バッテリーが過放電状態(例:2.5V以下)まで使い切られてしまった場合、いきなりCCモードの大電流を流すと、内部で短絡(ショート)を引き起こす可能性があり非常に危険です。
● 設計の勘所
まず0.1C程度の非常に小さな電流(プリチャージ電流)で、バッテリー電圧が安全な領域(例:3.0V)に戻るまでゆっくりと「起こして」あげます。安全な電圧に復帰したことを確認してから、本番のCCモードに移行する。このフェイルセーフな制御が必須です。
3 . 【応用】多セル直列パックの課題:「セルバランス」をどう実現するか?
産業機器などでは、48Vや72Vといった高電圧を得るために、多くのセルを直列に接続します。ここで「セルバランス」という厄介な問題が発生します。
製造上、全てのセルの特性(容量やDCR)を完全に一致させることは不可能です。 充電・放電を繰り返すうちに、特定の「弱いセル」だけが早く満充電になり、他のセルはまだ充電中…という「容量のバラツキ」が拡大します。
この「弱いセル」は、充電時には過充電状態に、放電時には過放電状態に陥りやすく、たった1つのセルの劣化が、バッテリーパック全体の寿命と性能を決定してしまいます。
これを防ぐのがセルバランシング回路です。
● パッシブ・バランス(抵抗方式)
最も簡易な方法。電圧が先に一杯になったセルの両端に接続した抵抗に電流をバイパスさせ、熱として消費させることで、他のセルが追いつくのを待ちます。
○ 欠点: 充電中(主にCVモード)しか機能せず、エネルギーを熱として捨てるため効率が悪い。
● アクティブ・バランス(充放電方式)
より高度な方法。インダクタやキャパシタ(チャージポンプ)を使い、「電圧が高いセル」から「電圧が低いセル」へ電荷(エネルギー)を能動的に移動させます。
○ 利点: 充放電中いつでもバランシングが可能で、エネルギーを捨てないため高効率。バッテリーパックの容量を最大限に引き出せます。
4. 株式会社Luciのソリューション:カスタム充電器設計のポイント
アクティブ・セル・バランサのような高効率な制御は、汎用の充電ICでは実現が困難です。
私たち株式会社Luciは、カスタム電源メーカーとして、お客様のバッテリー特性と運用(使用温度、想定サイクル数、要求される充電時間)を徹底的にヒアリングし、専用の充電アルゴリズムをMCU(マイクロコントローラ)に組み込んだ、世界に一つだけの充電回路を設計します。
● バッテリーのSOHを常時監視し、充電プロファイルを動的に最適化
● 高精度なアクティブ・セル・バランシングによるパック寿命の最大化
● 高効率なスイッチング充電回路の設計による、充電器自身の低発熱化
「バッテリーの持ちが悪い」「もっと早く安全に充電したい」「バッテリーの寿命を延ばしたい」。
もし回路設計でこのようなお悩みを抱えていらっしゃいましたら、ぜひ私たちLuciにご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。次回もお楽しみに!
お問い合わせ先
下記までお電話かメールにてお問い合わせください。
営業担当より折り返しご連絡をさせていただきます。
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株式会社Luci(ルーチ) 電源営業部 電源システムビジネスユニット
TEL:03-6327-7409
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