電源コラム vol.10「スイッチング電源カスタム化の深淵:技術者が知るべき設計の勘所」
近年、電子機器の小型化、高性能化が進むにつれて、電源ユニットに対する要求も多様化の一途を辿っています。
既製品のスイッチング電源では満たせない、「特定の用途に最適化された電源」 のニーズが高まっているのです。
今回のコラムでは、スイッチング電源のカスタム化事業に携わる技術者の皆様に向けて、設計における重要な勘所を掘り下げて解説します。
1. 要求仕様の正確な把握と落とし込み
カスタム化の第一歩は、顧客からの要求仕様を正確に理解し、具体的な設計へと落とし込むことです。
単に出力電圧や電流だけでなく、以下の項目についても詳細なヒアリングが不可欠となります。
● 用途:電源の用途、電源負荷、現行品型番、課題など
● 入力電圧範囲:範囲、許容変動
● 出力仕様:電圧、電流、リップルノイズ、過渡応答
● 保護機能:過電流保護 (OCP)、過電圧保護 (OVP)、過熱保護 (OTP)
● 環境条件:動作温度、保存温度、湿度、振動、衝撃
● 安全規格:取得すべき認証 (UL, CE, PSEなど)
● 実装スペース:許容される基板サイズ、高さ
● コスト制約:目標とするコスト(製品単価・開発費など)
これらの要求を曖昧なまま設計に進めてしまうと、後々の手戻りや仕様の不一致に繋がる可能性があります。
定量的な目標値を明確にし、顧客との間でしっかりと合意形成を行うことが重要です。
2. 回路方式の選定:用途に最適なトポロジーを見極める
スイッチング電源には、降圧 (Buck)、昇圧 (Boost)、昇降圧 (Buck-Boost)、フライバック、フォワードなど、さまざまな回路方式(トポロジー)が存在します。
それぞれのトポロジーには、効率、部品点数、ノイズ特性、コストなどの面で特徴があります。
例えば、
● 降圧 (Buck) コンバータ: 高効率で部品点数が比較的少ないため、一般的なDC-DC変換に適しています。
● フライバックコンバータ: 絶縁が容易であり、幅広い入力電圧範囲に対応できるため、AC-DC変換や絶縁が必要な用途に適しています。
カスタム化においては、要求される出力仕様、効率、絶縁の有無、コストなどを総合的に考慮し、最適なトポロジーを選択することが重要となります。
時には、複数のトポロジーを組み合わせた構成が求められることもあります。
3. 部品選定の重要性:性能と信頼性を左右するキーデバイス
スイッチング電源の性能と信頼性は、使用する部品の品質に大きく左右されます。
特に、以下の部品選定は慎重に行う必要があります。
● スイッチング素子 (MOSFET, IGBT): 耐圧、電流容量、オン抵抗、スイッチング速度などが重要です。
● インダクタ、トランス: インダクタンス、飽和電流、損失、絶縁耐圧などが重要です。
● コンデンサ: 容量、耐圧、ESR (等価直列抵抗)、ESL (等価直列インダクタンス) などが重要です。
● 制御IC: 制御方式、PWM周波数、保護機能などが重要です。
データシートを熟読し、アプリケーションノートなども参考にしながら、回路動作に最適な特性を持つ部品を選定することが、高性能かつ高信頼性の電源を実現する鍵となります。
また、サプライヤーとの連携も重要であり、長期的な供給安定性や技術サポートについても考慮する必要があります。
4. 熱設計:信頼性を確保するための重要な要素
スイッチング電源は、動作中に部品が発熱します。
特に、スイッチング素子や磁性部品は発熱量が大きいため、適切な放熱対策を施さなければ、部品の寿命低下や故障に繋がる可能性があります。
カスタム化においては、実装スペースや環境条件を考慮しながら、ヒートシンクの選定、基板パターンの工夫、冷却ファンの導入など、最適な熱設計を行うことが不可欠です。
熱シミュレーションを活用することで、設計段階で温度分布を予測し、問題点を早期に発見することも有効です。
5. EMC対策:ノイズ規格への適合
スイッチング電源は、スイッチング動作に伴いノイズを発生させます。
このノイズが周囲の電子機器に影響を与えないように、EMC (電磁両立性) 対策を施す必要があります。
カスタム化においては、ノイズフィルターの設計、シールド処理、基板のグラウンド設計などを適切に行い、要求されるEMC規格に適合させる必要があります。
設計初期段階からEMC対策を考慮することで、後々の対策コストを抑えることができます。
最後に
スイッチング電源のカスタム化は、多岐にわたる技術的な知識と経験が求められる分野です。
今回のコラムで解説した内容は、設計におけるほんの一端に過ぎませんが、カスタム電源開発に取り組む技術者の皆様にとって、日々の業務の一助となれば幸いです。
Luciでは、今後もカスタム化における具体的な設計事例や最新技術動向など、より専門的な情報発信を通じて、皆様の技術力向上に貢献していきたいと考えています。
最後までお読みいただきありがとうございました。次回もお楽しみに!
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